Book*
中町信
書名 | 出版社 | 満足度 |
---|---|---|
模倣の殺意 | 創元推理文庫 | ★★★☆ |
「模倣の殺意」 中町信著 創元推理文庫 ★★★☆
あらすじ
(中扉より抜粋)
七月七日の午後七時、新進作家、坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。遺書はなかったが、世を儚んでの自殺として処理された。坂井に編集雑務を頼んでいた医学書系の出版社に勤める中田秋子は、彼の部屋で偶然行きあわせた遠賀野律子の存在が気になり、独自に調査を始める。一方、ルポライターの津久見伸助は、同人誌仲間だった坂井の死を記事にするように雑誌社から依頼され、調べを進める内に、坂井がようやくの思いで発表にこぎつけた受賞後第一作が、さる有名作家の短編の盗作である疑惑が持ち上がり、坂井と確執のあった編集者、柳沢邦夫を追及していく。
「うん。編集長は、犯人が前半でわかってしまうような作品では、読者がもうそこでその小説をほうり出してしまうと言うんだな。犯人が安易にわかってしまっては、そのあとに続くアリバイのトリックやなんかが、いかに巧妙に描かれていても、それは作者のくだくだしい言い訳にすぎないって言うんだ」
感想
初出が1972年とは驚きです。「国鉄」だとか「東京都内のアパートの賃貸料が2万円」といった細かいところには時代を感じるものの(^^;)、それ以外では最近書かれたといってもまったく違和感のない作品でした。解説でも書かれていましたが、類似ネタはあれど、これより先に書かれた作品はないのではないかということで、先駆的な新しさが見受けられます。
以下、ネタバレを含むので隠します。読まれる場合は反転させてください。
見事な「叙述トリック」です。しかも、人物と時間の二段重ね。ただ、ミステリを読み慣れている人なら、だいぶ早い段階から見破れるかもしれません(上でも書きましたが、同様のトリックは、この後いろんな作品で使われているので)。かくいう私も、たまたま最近よく「叙述トリック」ものに当たっていたので、珍しく大筋は読めていました。でも、ミステリは、「そんな気がする」のと、「絶対に○○だ!」と確信しているのでは、非常に深い溝が存在するものです(^^;)。ということで、解決した気になりつつも、最後の最後まで楽しむことができました。あ、でも「四時二十二分」のアリバイトリックは、ちと古臭かったかもしれないな(^^;)。
ネタバレここまで。
柳沢の妹の自殺のきっかけと、傷害を持った子どもの描写やその親を含めた周りの偏見が少し気になりました。確かに一般的な考え方であることは否定できませんが、でもそれならなおさら、片手間に書かないで欲しいな、と……このへんは多分に個人の好みが入っていますね、すみません(^^;)。
事件に関わる盗作作品が、決して傑作ではなく二流の作品というのが、何とも意味深ですねえ。今、出版されている本のうち、どれだけのものが時を超えることができるのかな、などと考えながら読んでみるのも面白いかもしれません。正統派ミステリが好きな方にオススメです。
(2004.12.18 読了)